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「おぎゃー」で大変だ!母体から外へ赤ちゃんが感じている劇的変化 母親のホルモンによる感情変化、愛着障害など

コラム

「おぎゃー」で大変だ!
母体から外へ赤ちゃんが感じている劇的変化 母親のホルモンによる感情変化、愛着障害など

医療福祉コンサルタント(スウェーデン元作業療法士) 河本佳子2022.09.09

「おぎゃー」で大変だ!スウェーデンと日本で私は数十年にわたり作業療法士として何らかの障がいをもっている子供たちにリハビリを重ねてきました。2つの国で障がい児支援に携わると違いも感じます。その感じたことを書くことで、日本の幼稚園や保育園の先生方の活動のヒントになればと願っています。リハビリをするには、子供の正常発達を基本に評価して支援します。これからの定期的なコラムは定型児と障がい児の双方の成長に関して現在の移住先スウェーデンから書かせていただきます。

赤ちゃんが産まれるには数億分の一の可能性で精子と卵子が受精し胎児になりますが、受精前も受精後も数々の苦難が待ち受けています。無精子症、不妊症、流産、染色体変異、胎児の器官成長の異変、早産、逆子、出産時のトラブルなど、考えれば一人の赤ちゃんが産まれること自体がまさに奇跡なのだとわかります。つまりあなた自身もあなたが関わる子ども達も、この世に生まれてきた奇跡の人なのです。生命の大切さを実感しますね。

この奇跡的な赤ちゃんの中には、定型児ばかりとは限らず生まれてから分かる多種類の障がいがある赤ちゃんもいます。

身体器官の異常はすぐに発見されますが、内面的な疾患はすぐには分かりません。例えば、遺伝性疾患、血友病、骨形成異常症、アンジェルマン症、染色体変異、その他、性同一障がい、癲癇性疾患、知的障がい、精神障がい、発達障がいなど、いろいろの素因をもって生まれる赤ちゃんがいます。医学の進歩で昔は助けられなかった命も助けられるようになってきたからかもしれません。赤ちゃんはよく親を選んで生まれると言われますが親としては選ぶことは決してできませんし心の準備もできていません。先生方も、このように意外と多くの子どもが何らかの疾患を持って生まれてきていると知れば、「我が子だけが」と自分を責めてしまう親が多いこともお解かりになると思います。保護者に寄り添い互いに勇気を出して共有することが、その子のためのより良い支援につながるのです。

『誕生の瞬間』

みなさんが接している子どもたちが、どのように誕生しどのような発達を経て今目の前にいるのかを見ていきましょう。

誕生し外界に接した赤ちゃんは肺をいっぱい広げて空気を吸って初泣きします。空気中の酸素を取り入れないと脳の低酸素や虚血症状がでるため、赤ちゃんは必至で呼吸するのです。親としてははじめて聞く泣き声に感動する瞬間です。家族として成立するワクワク感でいっぱいだと思います。生まれてきた新生児には原始反射といわれるサバイバルするための反射機能が備わっています。お乳を探索して見つける反射、見つけると吸いつく反射。親が人差し指を赤ちゃんの手に当てるとしっかりと握ってくれるのは、手掌把握反射です。親としては初めての赤ちゃんとの接触で指を握り返してくれると嬉しい限りですね。1-2か月でこの反射は消滅しますが、逆にしっかりと目的物を握る動きがでてきます。同じく、赤ちゃんを少し抱き上げると歩くように足を交互に動かします。これも足踏み反射で、歩行に似た感じでやがて独り歩きができる頃には、この反射は消えて自力で歩けるようになります。このように全ての原始反射は必要時に生じていらなくなると消滅していきます。一生必要な反射もあるのでこれについてはまた今度コラムに書きます。

『全ての感覚や運動の神経回路が脳と繋がっていく』

赤ちゃんの感覚器官は誕生時にはすでに大人並みです。しかしまだ脳がそれを受け入れる準備ができていないので、何度もトライして知覚し認知(認識・記憶・情報選択)などへと繋ぐ練習が必要になります。そのためにも周囲からの優しい感覚刺激ができる環境が必要になります。胎児の時から聞いていた心音や内臓の音や親のお気に入りの音楽などを睡眠時に聞かせると眠りにつくのも早いと言われているのは、聴覚がすでに成長しているからでしょう。さらに日常になされる親の声かけ、好きな音楽、肌触りの良いシーツやぬいぐるみ、胎内にいる時と同じくゆっくりとした環境、おむつの取り換え時に行われるマッサージなどは皮膚感覚を覚醒させ体感し、お風呂は胎内時を彷彿とさせる気持ちの良さを感じ取り、親に抱かれる腕の抱擁感、母乳の匂い、母親のお乳が頬にあたる柔らかい感触など、赤ちゃんは「おぎゃー」と泣いたときから、日々の生活の中で親を感じ信用し虜になっていきます。生まれてすぐに立ったり泳いだりとサバイバル方法を知っている動物もいますが、人間の赤ちゃんは親無しでは生きられません。だからこそ、親の存在が大切で親の精神状態をも敏感に感じとるのです。

『果たしてこの信頼に親は答えられるのでしょうか?』

妊娠時の母体は、赤ちゃんを育てやすい子宮環境にするためにエストロゲンやプロゲステロンのホルモンが増加しますが、出産と同時にこれらのホルモンが一気に減少します。そのため自分ではコントロールできない身体的、感情的変化が生じ、これが産後鬱や愛着障がいに発展することもあるのです。人格形成の大事な時期に大きな影響を与えるので、産後の母親を守る環境がいかに重要かお解かりいただけると思います。赤ちゃんが生まれてから夫婦関係の試練が始まると言っても過言ではないでしょう。子どもへの愛情はすぐに備わるわけではありません。赤ちゃんと接し、泣き声に反応し、あやし、抱擁し、見守りなどをすると分泌される、愛情ホルモン=オキシトンによって成長していきます。これは母親でも父親でも同じで、オキシトシンは、人と人とがふれあうことで分泌され、信頼と親密の絆を生み出し、それが子どもへの愛情につながります。人間の身体は本当に正直にできていますね。愛情ある暖かい環境が非常に大切なのです。

「おぎゃー」で大変だ!ところで、もしも待ちに待った赤ちゃんが何らかの機能障がいを持って生まれることが、冒頭でも述べたように意外と多くあります。保護者にとっては、産後の一番大切な時期に失望と焦燥でストレス満杯、たくさんの選択を迫られる異常事態になるかもしれません。その時に一番必要なのが周囲の理解と暖かいサポートです。

あるアメリカの作家が、障がいのある我が子の誕生について、次のように例えて語っていました。「私はアメリカから英国へ向けて移住する準備をしていたのに、突然目的地ではないオランダに着いてしまった。言葉も生活様式も全然わからないしどうやって生きていけばよいのかわからない」つまり、正常発達での子育てを想像していたのに生まれた子どもが障がい児だったために目的地を失ったようだと表現をしていたのです。でも彼女は「異国でも徐々に言葉を覚え生活様式にも慣れ、十分暮らして行けることを学ぶように、障がいについて学び、それにあった対応をし、あるがままの家族として生活していくのを学んでいけるのです。

障がいが有っても無くても赤ちゃんが生まれると誰しも劇的な変化の中に放り込まれゼロからのスタートになります。

子育ては一人で悩まないで回りの人との協同作業で育まれていくべきです。夫婦、家族、親戚、友人、隣人に頼り、協力・支援をしてもらってよいのです。保育園、幼稚園の先生は、保護者に、一人で完璧にこなそうと頑張りすぎないことや、皆に助けてもらってよいことを、発信しつづけてほしいと思います。また、先生方自身も担当する子どものことで悩むことがあると思います。同じように、いろいろな人たちと協力しながら、その子の支援をしていければ良いですね。

『スウェーデンの風景から』

「おぎゃー」で大変だ!8月の初旬からスウェーデンではザリガニ解禁になり、10cm以上の大きいザリガニが捕獲できるようになります。実はこのザリガニ料理がメインのパーティ「kräftskiva(クレフトシーヴァ)」が、この時期から秋にかけてのスウェーデン風物詩で、歌を歌って無礼講で愉快に過ごす声が夜遅くまで聞こえてきます。泥を吐かせたザリガニをハーブのディルと一緒に塩茹でし、スナップスという強いお酒と一緒に楽しみます。このザリガニは好きな人と嫌いな人に別れるようで、私は、スナップスは、飲めないですがザリガニは大好きで10匹くらい平気で食べます。ザリガニが好きな人はこの季節が待ち遠しいのです。

次回は「首が座ってお座りができるようになるためには」をテーマに書きたいと思います

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